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ファクトリー訪問 – Perazzi / Italy
文/写真:竹村吉史 |
Vol.01 ファクトリー訪問 – Perazzi / Italy
1957年の創業以来、一貫して命中精度と操作性の良さにこだわり続け、銃のフェラーリとも呼ばれるペラッツィ。世界中のアスリート達に絶大な支持を受け、北京オリンピックでは15枚のメダルのうち、何と11枚がペラッツィの銃によって獲得されているのだ。 銃の故郷として知られるイタリアのブレーシャ。この町の北部の山間にある小さな街ガルドーネには、ベレッタを筆頭にリッチーニ、レナトガンバ、ファーマスなど、歴史ある大小のガンメーカーが所狭しとひしめき合っている。対してペラッツィ社はブレーシャ東部の田園地帯に立地している。ペラッツィ社の創業当時は銃産業が賑わっていた頃なので、ガルドーネに入り込むスペースなどなかったのだろうか。しかしペラッツィ社は、4度目の移転で狭いガルドーネでは不可能な、30,000㎡という広大な敷地を贅沢に使ったファクトリーを実現させた。
ペラッツィの創立者は現社長でもあるダニエル・ペラッツィ氏。14歳の頃にガンスミスの仕事に就いたが、実際に製銃作業に関わらせて貰えず、仕事を終えた後に頼み込んで銃作りを教わったという。20歳の頃には一端のガンスミスにまで成長し、いくつかの特許を取得していたが、22歳で軍隊に召集されてしまう。さらに不幸なことに、不発弾処理中に同僚のミスで8か月の長期入院を余儀なくされている。
当時イタリアでは、負傷兵は政府系企業で働けることになっており、ダニエル氏はガルドーネにある銃製造会社のフランキガンに務めはじめる。しかしダニエル氏の理想とする銃作りと量産を目すフランキ社とは大きな隔たりがあった。ダニエル氏は自宅で銃を製造しては射場に持ち込み、一丁売っては材料を購入し再び作るという方法で顧客を増やしていった。
そして1957年、ペラッツィ社を創立し、何とそれから僅か7年後の1964年、東京オリンピックでペラッツィ銃を使ったエンリオ・マッタレッリ選手が金メダルを獲得。今やオリンピックや世界選手権を席巻したアスリート銃として不動の地位を誇っている。もちろんそのような銃を富豪や貴族が放っておくはずがない。高性能のまま、より高級なペラッツィが求められ、現在では素晴らしいエングレービングや金象嵌が施されたエレガント銃がラインナップされている。一流のアスリート銃でありながら、セレブの要求をも満たす唯一無二の銃メーカーとして現在のペラッツィがあるのだ。
現在はダニエル氏の長男であるマウロ氏がペラッツィ社の陣頭指揮を執り、更なる躍進を遂げている。社員100名で1日の生産本数は僅か7~8本。超精密マシンを駆使しても、職人の手による調整と仕上げに時間を掛けるからだ。究極の銃作りに妥協しないのは、ダニエル氏に負けず劣らずだ。
ペルシャ絨毯が敷き詰められたショウルームには、ペラッツィ銃が整然と並び、シューティングシミュレーターも設置されている。一度は訪問しておきたい場所だ。
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ショウルーム横に作られたファクトリーショップ。ペラッツィのウェアやグッズばかりが大量に並ぶ。 |
ファクトリーの隣には、美しいレンジがある。一般には開放されていない、プライベートレンジだ。 | オリンピックでの活躍を受け、最近頭角を現してきたMX2000/3。調整式リブにより、照準点を大きく移動できるのが魅力。
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ファクトリーと呼ぶのを憚れるほどの美しい空間、右が銃床、その左から奥が機関部パートとなっている。 | パーツは基本的にインゴットの状態でペラッツィ社に納入される。左はレシーバー用で、右はイジェクター用。ほとんどが加工で切削され、パーツとなる部分は僅かしか残らない。
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今年導入されたCNCマシンで、価格は約1億円! 同様のマシンが3台設置されている。 | CNC用切削歯の測定器。マシンが正確でも、歯が摩耗してしまうと上がり寸法も狂ってしまう。 |
非接触型三次元測定器でチェックされるレシーバー。生産される全てのレシーバーについて測定されている。 | レシーバー部を担当するマエストロが使うヤスリの数々 |
CNCで削られたレシーバーの外形を整えているマエストロ。巧みなヤスリ使いで美しい曲面を削りだしてゆく。 |
パーツの組み付け作業。操作部の渋さや緩さはここでセッティングされている。
レシーバーの砲底部とバレルジャケット部の摺り合わせ。青い部分を削って調整する。 |
銃身用の原材料は5mの無垢棒として入荷後、必要な長さに切り分けられる。 | 無垢棒はガンドリルで30〜40分かけて中心部に穴が開けられる。次はさらに大きなドリル歯が装着されたガンドリルで穴が広げられ、段階を追って指定のゲージサイズにまでボアが拡張される。ボア加工を終えると外側が削られ、銃身の歪み調整の工程に運ばれる。
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前方に表示された横線を、銃口を通して見ることで銃身の歪みを確認する。銃身のセットされた部分が修正機でもある。 | 油圧式の銃身内圧試験器。油圧が高まるに連れ、銃身が蛇のように捻れはじめ、720から800気圧ほどで破裂する。銃身の最薄部が裂けるため、正確に加工されているかを確認することができる。
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金属のキズや巣を可視化させるマグナ・フラクス社の蛍光浸透探傷検査機。これも銃身全数がチェックされる。 | 加熱前と加熱後に、上下銃身とリブの位置関係が狂っていないか、両サイドに付けられたマイクロメーターでチェックされる。
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銃身に熱の負荷をかけないため、リブの接合は180℃〜200℃で加工できるハンダが使われる。熟練に10年かかる難易度の高い仕事だ。 |
ガイドラインが彫られただけのチェッカリング作業前の銃床。 モデルごとに用意されたトライガンの数々。トライガンは容易にプル/コム/ヒールなどを作り上げることができるため、フィッティングの各部寸法を知ることができる。 |
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銃床は機械による3工程で大まかな形が作られ、最後はマエストロの手によって仕上げられる。
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美しく仕上げられた高級銃床に臆することなく、手早くチェッカリングが刻まれてゆく。見ている方がドキドキしてくる。 | ダニエル氏の長男でペラッツィ社の牽引役として活躍するマウロ・ペラッツィ氏。銃業界では知らぬ人はいないという程の有名人だ。
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右がミスターペラッツィこと創業者のダニエル・ペラッツィ社長。左は娘さんで総務・財務を担当するロベルタさん。 |