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ファクトリー訪問 – 梅津クレー製作所 / Japan

umezu_3_nk9b0473mein 文/写真 : 竹村吉史

戦後の復興期に立ち上がり、進駐軍も納得した高品質

正式名称はクレーピジョン、直訳すると粘土の鳩?

クレー射撃で空を舞う標的は、一般的に皿やクレーなどと呼ばれているが、正式な名称はクレーピジョン。そもそもクレー射撃と総じて呼ばれるようになったのは、クレーピジョンが生まれた後であり、それまでは青鳩射撃として長い歴史を持つ射撃競技である。

その昔、欧州の貴族は青鳩を罠籠に入れ、扉を開けることで飛び立つ鳩を撃つ射撃を楽しんでいた。それがトラップ(罠)射撃であり、紐を引いて罠籠の扉を開ける人がプーラーと呼ばれていた。そのため現在のクレー射撃でもそれらの呼称が使われているのだ。さてその鳩撃ちは貴族間で広く流行ったことで、深刻な鳩不足になったという。さらに米国の動物愛護団体からの圧力もあり、鳩の代替えを見つけなくてはならなくなった。そこで生まれたのがガラス玉で、時期はバファロー・ビルのウエスタン・ショーにも使われていたので、おそらく1860年以降ではないかと思われる。その後の1880年頃、今で言うクレーピジョンが作られるようになり、現在まで130年にわたり基本形を変えることなく引き継がれている。

umezu_24_glass 青鳩からクレーへの移行期に生まれたガラス製の標的。後ろの絵にはウエスタン・ショーの模様が描かれている。

クレーピジョンの公式規格はISSFによって定められている

クレーピジョンはトラップ射撃、スキート射撃ともに同規格のものが使われており、地面を転がすラビット射撃用だけが別規格となっている。トラップ・スキート用の規格は、直径110mm±5mm、高さ25mm±1mm、重さは100〜110gと定められ、これはISSF(国際射撃連盟)の基準に則った値となっている。またサイズだけでなく、日本クレー射撃協会による強度検定も課せられ、50gの鉄球を20cmの高さから落下させてヒビが入るかなどもクリアしなくてはならない。この強度は散弾が2〜3粒当たれば割れる程度だという。また色はオレンジ又は白と指定されており、公式戦ではどちらも使われるが、オレンジが圧倒的なシェアを収めているのが実状だ。

クレー射撃の主役級にありながら意外と見逃されがちなクレーピジョンだが、設計・製造側からすると飛びや割れ方など、ノウハウやこだわりの詰まったものであり、クレーシューターとしてもう少し興味を持っておきたいものだ。

62年もの歴史を持つ梅津クレー製作所の生い立ち

東北から関東、東海地区で見かける、ディスクトップに梅のマークが浮かぶ梅印クレーを製造しているのは、福島県須賀川市に工場を構える梅津クレー製作所だ。
同社の設立は戦後の昭和22年。創業者である先代の趣味としてクレー射撃を楽しんでいたが、当時は劣悪な道路事情によって東京から届けられるクレーピジョンの約半数が割れてしまっていたという。そこで戦前の製造機を入手して、独自に製造を始めたというのが梅津クレー製作所の源流となっている。

この時期、アメリカではクレー射撃が流行っており、当時日本に進駐していた米軍ベースの多くに、アメリカントラップ射場が設置されていた。もちろんクレーピジョンは高い輸送費を払ってアメリカから取り寄せていたが、先代の作ったクレーピジョンが進駐軍司令官の目に留まり、米軍への納品が決まったという。もちろんその時が事業としてのクレーピジョン製造の始まりである。米軍関係者から好評を得た梅津クレーは東北地方のみならず、朝霞、立川、横浜など関東地方のベースにまでクレーピジョンを納品していたそうだ。

事業が軌道に乗り、古い戦前の製造機を新しいものに変えてきたが、現在は本場イタリア製の製造機が導入されている。

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umezu_6_nk9b0417 クレーピジョンは、上質な石灰6に対しコールタールピッチ4の割合で構成されている。バケツ内は加熱され液状化したピッチと石灰が配合されたもの。
umezu_7_nk9b0418 配合された原料は攪拌機によってムラ無く混ぜ合わせられる。
umezu_8_nk9b0424 クレーピジョン専用のプレス機。左から素材が注入される。

梅の印がトレードマーク梅印クレーの製造工程を見る

クレーピジョンは、一般的に粘土とピッチなどで作られていると思われているが、実はピッチと石灰のみで製造されている。基本的にはピッチ4に対して石灰6と、ピッチが石灰のバインダー(蕎麦で言うつなぎの役割)となっている。この配分を微妙に変え、石灰の粒子サイズとの組み合わせで狙い通りの強度と重さを実現させているという。梅印クレーは出割れが少なく、当たったときに粉々に気持ちよく砕けるのが特徴で、長年培ってきたノウハウが存分に活かされているのだ。

 

クレーピジョンの製造は、固形で入荷したピッチの溶解から始まる。溶解炉で液状化されたピッチは石灰と共に攪拌機に投じられ、十分に混合されてプレス機の金型に流し込まれる。イタリア製のプレス機には21もの金型が備えられていて、1秒に1枚のスピードで次々とプレスされていく。てっきり焼き物と思いこんでいたため、生産スピードがあまりにも早いことに驚かされてしまった。

 

プレス機の雌型に流し込まれた素材は上から雄型にプレスされ、約20秒間加圧され、その間にプレス機の水冷システムによって冷却されてクレーピジョンの形状に固体化される。金属でいえば鋳造にあたる製法で、冷却には1枚あたり2リットルの水を必要としている。金型から僅かに溢れて固まったバリは、型抜き前にプレス機と連動したバリ取りアームで取り除かれ、その後クレーピジョンは上下金型から外されてベルトコンベアラインに乗り、自然冷却されながら次工程の塗装ブースに向かって行く。

 

塗装ブースもイタリア製のカスタム機が導入され、着色に使用される塗料は塗料メーカーと共同開発したもので、発色が良く、クレーピジョンへの定着力を増すよう接着剤が配合されているという。また飛翔時に太陽光で表面が白く光ることを避けるため、一般的な刷毛塗りから吹き付け式に改造されていた。コンベアでブース内に流れてきたクレーピジョンはアーム上に載り、皿回しの如く回転が加えられ、スプレーガンにより満遍なく塗料が吹き付けられていく。

 

塗装を終えると再びベルトコンベアに戻り、30メートル以上もある強制乾燥ラインを流れ、パッキング工程に到着する。ここでは自動的に25枚のクレーピジョンが重ねられ、人の眼と手による最終チェックが行われる。合格すると200枚入りの段ボールに収められ、出荷を待つことになる。

 

梅津クレー製作所のラインはオートメーション化されているため、ピッチの熔解、石灰との配合、プレス前の撹拌、チェック&パッキングを担当する僅か4名でラインが賄われ、何と1日に25,000〜27,000枚ものクレーピジョンが生産されているという。

 

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断熱テープの巻かれた注入口から金型に原料が注入される。1枚製造するのに必要な量が計られているので無駄がない。 円周に21個分の金型が配置され、原料注入から約1分で固形化するよう、冷却用の水冷システムが金型を冷やしている。
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金型から固形化したクレーピジョンを抜き出す寸前、バリ取りアームが自動的に余った材料を剥がし取っている。

 

金型から抜き出された素材色のクレーピジョンは、自動的にベルトコンベアラインに流され、塗装工程へと向かっていく。
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イタリア製の塗装ブース。手前の部分でベルトコンベアからアームタイプのコンベアに切り替わって行く。 塗料は梅津クレー製作所の特注品。発色が良く、材への定着に優れた塗料で、吹きつけ塗装にも対応している。
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塗装機のブース内に入るとクレーピジョンが回転を始め、スプレーガンからの塗料をムラ無く上面に行き渡らせる。 まんべんなく着色された状態で塗装ブースから出てくたクレーピジョンは、再びベルトコンベアに乗り次工程に向かう。
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塗装後の乾燥工程は、ベルトコンベア上に設置された長い筒から温風を吹き当てる、強制乾燥システムとなっている。 30m以上はある乾燥工程。1秒に1枚のスピードでクレーピジョンが流れる壮観な景色。
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最終工程となるパッキング&検査工程では、完成したクレーピジョンが25枚単位で自動的に積み上げられる。 パッキング前に人間の眼と手による検査が行われ、合格すれば200枚入りの段ボールに丁寧に詰め込まれて行く。

 

試行錯誤を経て育ってきた梅印クレーの高い完成度

前述したが、梅印クレーは出割れが少なく、当たったときに粉々になるのが特徴。それは命失中のジャッジングの明確性にとって重要であり、射手にとっても気持ちよく射撃ができるため、クレーピジョンメーカーとしてはこだわりたい部分となってくるが、そこに辿り着くまでには様々な苦労があったという。主材となる石灰ひとつとっても、採取地によって含有成分も粒子サイズも異なっているため、大手研究機関に調査を依頼し、共同でクレーピジョンにとって最適な素材を選択したそうだ。しかし材料の吟味だけでは、強くかつ気持ちよく粉砕されることはできず、形状や肉付けによっても変わってくる。もちろんそれは飛び方にも大きく影響するため、社内に設置された旋盤で金型を試作し、成形しては出来上がったクレーピジョンを持って自社の射場に走る日々が続いたそうだ。

射出後60m先まで一定の速度を維持したまま、カーブやスライスしない素直なストレートを描く理想的な飛行線を実現するには、重心を高い位置に置くか低めにするか、重量配分を外周または内側に寄せるかなど様々な要素が絡み合う。クレーピジョンはフライングディスク(フリスビー)のように空気を内部にはらませて飛行するため、内部形状や外側の肉厚を増して回転を持続させるなど、理屈だけでは設計できない部分も多い。さらに放出機に対しても、国産機から輸入機までどのマシンから飛ばされても安定して飛ぶ汎用性も要求されるのだ。

取材後、編集部内にあった数年前の梅印クレーと取材時に戴いたものと見比べていたら、放出ブレードの当たり面が増え、そこに刻み目が入っていることに気が付いた。もはや完成していると思われるクレーピジョンにも、密かにバージョンアップを計るという梅津クレー製作所の姿勢が強く感じずにはいられない。僅か数秒しか射手の目に映らないクレーピジョンだが、その一枚一枚に作り手の気持ちが込められているのだ。

 

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上が旧モデル、下の新モデルには肩の立ち上がり部分にギザギザが付いている。この刻み目は、放出機の放出ブレードとの滑り止めで、鋭い回転を実現させる。 自社で運営する福島県中央国際射撃場は、梅印クレーの貴重なテストフィールドともなっている。

 

 

umezu_23_nk9b0497 梅津クレー製作所(梅津商会)

専務取締役 梅津 亮氏
1973年全日本選手権大会トラップ射撃優勝の実績を持ち、現在は梅津クレー製作所、梅津銃砲火薬店、福島県中央国際射撃場を取り仕切る、根っからの銃好き。クレーピジョン作りへのこだわりも強く、製造のノウハウも計り知れない。

 

〒962-0834 福島県須賀川市旭町6-3

TEL    0248-75-3300
FAX    0248-75-3302

 

SPORTS GUN GUIDE BOOK 2010 掲載